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男は走っていた。どこへ行くとも知れず、どこまで続けるかもわからず、それでも男は走っていた。
あるとき、男の隣に意地の悪そうなカラスが並んで飛んだ。走り続ける男の隣をほとんど同じペースで飛び続けながら、そのカラスは男に飄々と話しかけた。
「やあ。そろそろ休んではどうだい。周りを見てみな、くたびれた顔をしてるやつも多いぜ」
男は走りながら周囲を見渡した。男以外にもたくさんの人が走っていた。しかしカラスの言う通り、誰もが瞳を輝かせて前へ進んでいるわけではなかった。
息を切らせ、苦悶の表情で走り続けるもの。無気力にとりあえず進むだけのもの。すっかり止まってしまったものだって、多くいた。
「いえ、私はまだまだ大丈夫。休憩は必要ありません」
きっぱりと言い切る男に、カラスはまだ茶々を入れる。
「どこまで走ったところで、結局はむだかもしれないんだぞ」
「そうかもしれない。でも、終わってみるまでわかりません」
「どうだか。あきらめてるヤツがたくさんいるのは、結局走るのなんて無駄だと悟ったからじゃないのか?」
「無駄だったかどうかは、私が決めますから」
男は走り続けた。カラスもまた、侮蔑と好奇心の入り混じった瞳で、男の傍を飛び続けた。
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