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しばらく時間が経った。
男はまだ走り続けていたが、その腕には子供を抱いていた。隣にはカラスの他に女がいて、男と共に走っていた。二人は男の家族だった。
「どうした。この頃、疲れた顔をしているぞ。やっぱり走るのなんかやめてしまえ」
男は確かに疲れていた。その足が、徐々に勢いをなくす。女は心配げに、その後ろについていた。
「さすがに、疲れがたまってきました」
男はついに止まってしまい、その場に座り込んでしまった。カラスはここぞとばかりに男を見下ろした。
「他のやつと足並みを揃えて走るのは一苦労だろう。まして、赤子を抱えてなんて、馬鹿みたいな話だ」
「苦労は、とても増えました」
一人気ままに自分のペースで走っていたときの方が楽だったのは間違いない。
「ほらみろ。やっぱりお前も他のやつと同じだ。前は大きなことを言っていたが、結局走りきるつもりなんてなかったんだろう」
ただ、増えたのは苦労だけでもなかった。男はカラスの目を真っすぐ見つめ返すと、毅然とした態度で言った。
「いいえ。苦労も増え、体も追いつかなくなってきましたが、楽しみもたくさん増えました。私は最後まで走ります」
「だが、お前の足は実際に止まっているじゃないか」
「時には休憩も大事だと、私は学んだのです。私自身が、そして妻と子が疲れてしまわないように。力を蓄えたら、きっとまた走れます」
あくまで希望を捨てない男。カラスは吐き捨てるように言った。
「けっ。そこまで言うなら最後まで監視させてもらう。そして、途中であきらめたときに大声で笑ってやるんだ」
座り込む男の横で、カラスはしぶしぶ羽を休めた。
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