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少し長めの休息があって、男たちはまた走り始めた。
「おい、見ろよ。何人か脱落したみたいだぜ、お前の仲間は」
男が改めて辺りを見回すと、それまで同じ道を走っていた数人がいなくなっているのに気付いた。試しに電話で連絡してみると、休んでいた間にもっと先へ行ったもの、別の道へ行ったものなど様々だ。彼らの子供も、いつしか彼らとは別の道へ進んだ。
ときどき道が重なり合う時には再会できるかもしれない。けれども、男の両親を含め、すでにいなくなってしまったランナーも、わずかにいた。
「ずっと同じ道を行くのは難しいでしょう。仕方のないことです」
男の傍には、女と、カラスとがいた。
いくらかペースが落ちてきたものの、男はまだまだ走り続ける気でいた。女も並んで走っていた。仲間は少なくなったが、周りに気を取られず、二人でゆっくりと楽しみながら走るのも悪くないものだと、男は考えるようになった。
「最初の勢いはどこに行ったんだ。今のお前は昔とは別人だぞ。それでいいのか」
「人は変われるものです。ただスピードを上げるばかりが全てではないと、気が付いただけのことですよ」
男の落ち着いた表情に、カラスの憎まれ口も底をつき始めていた。迷いもない、気後れもない、自分の信じた道をしっかりと走っている。文句をつけるところがなくなっていたのだ。
ところが、状況が変わる事件が起きた。
女が体調を崩してしまったのだ。このまま走り続けることはできない。男は一旦、立ち止まった。
「いつかは、と思っていたが、ついに……」
「ちょうどいい機会だ。ここらでやめちまえよ。もうそろそろ潮時だろ?」
「……」
男は消沈し、受け答えする元気もなかった。これまで長く長く共に走ってきた女だった。いつも一緒だったものが突然に倒れてしまうのは、自分の半身を失うにも等しい出来事だった。
「おい。何か言えよ。おいったら……」
これまで幾度も男を邪魔してきたカラスだったが、彼が言葉も忘れるほどに落ち込むなど、考えたこともなかった。
「ちっ、調子狂うなあ」
女の傍らでただその手を握りしめる男を、カラスは黙って見つめていた。
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