何も起きない

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「よォし、今回のテストも学年一位だ」  中学二年の少年・淳は、今日も青春を謳歌していた。  とはいえ彼の学生生活は最初から順風だったわけではない。すべてはつい先日、些細な事故で頭を打ってからのことだ。  痛みが引いたそばから成績も、運動能力までもが飛躍的に上昇し、そのお陰で性格まで明るくなった。彼の日常は、文字通りひっくり返ったのだ。 「おめでとう、淳」 「ああ、ありがとう」  淳の隣には満面の笑みで彼を祝福する女生徒がひとり。彼女いない歴の自己記録をひたすら更新し続けていた淳にできた、初めての彼女だった。  全く、ここまでいいことずくめならもっと早くから頭を打っておけばよかったな。  ごく稀に、頭部を強打したのちに何らかの才能が開花した、という人のニュースが世間を騒がせることがある。淳の場合も、それと同じようなことが起こったのだと思わずにはいられなかった。  では以前の彼はといえば、長所も取り柄も何ひとつなく見当たらず、事あるごと、 「つまらねえ毎日だな」  と呟いて一日を終える、そんな人物だった。  名前は淳と書いてスナオ。成績はせいぜい中の下、運動は大の苦手。そのくせ年頃のせいもあってプライドだけは高く、ついたあだ名はスネオで、当然のごとくクラスで疎まれる存在だった。  努力はダサい。理想は高い。そんな価値観の彼は現状に飽き飽きしながらも環境を変えようとはせず、何も起きない毎日が延々繰り返されるだけの人生を生きていたのである。  ところが、突如降りかかった不幸が、彼を変えるきっかけとなって――。 「おい、てめェ。いい加減調子に乗ってんじゃねえぞ」  ――きっかけとなったものの、少々のトラブルも舞い込むようになった。 「……やれやれ。またか」
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