何も起きない

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 一躍クラスの人気者、校内の有名人となった淳は、一部の不良生徒から目をつけられたのだ。体育館裏に呼び出されたこともあったし、下校中に絡まれたこともあった。今日は校門前での待ち伏せだ。奇抜な色の髪の毛を生やした数人が、ぞろぞろと淳の前に歩み出る。 「かかれ!」  一人対多人数、前口上もないまま各々わかりやすい凶器を振りかざし、卑怯の限りをもって淳に襲いかかる不良たち。しかし淳はまるでうろたえることなく、口の端を吊り上げさえしながらそれに対応した。攻撃をことごとく避け、代わりに自分の拳と蹴りを叩きこんでいく。上昇した運動能力は、ケンカでもその力を発揮した。 「く、くそっ、これでも勝てないのか……」  決着は早くつき、地面に転がった十人余りの不良たちを淳ひとりが見下ろしている。淳にとっては、もはや見慣れた光景だ。 「ムダだ。何度やっても結果は変わらない」  気障な態度を崩さない淳だが、文句を言う者はいない。むしろ彼を慕う声が大きくなるばかりだった。  ひと仕事終え、彼女とともに帰路についた淳。しかし、行く手に妙な気配を感じ取り、その足を止めた。  誰かいる。でも……。  不良の類が放つ殺気とは少し違う。警戒しつつ淳が一歩踏み出ると、わき道から謎の男性が現れた。 「知り合い?」 「いや……」  不思議そうに問う彼女に、淳は首を横に振って答えた。  見た目だと三十代なかばほど、中年と呼ぶにはまだ若い、中肉中背の男性だ。地味な洋服の上に、目の冴える白いアウターを羽織っている。どれだけ考えてみても、やはり淳の知る人物の中に男の顔はなかった。
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