一章 ほとぎ ひなの日常

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歩みも軽い。心が軽いからかもしれない。 ずんずんと進む坂道を登っていく間、昨日のバスの事を思い返す。 いいの、あれが夢でも。私、今幸せなんだから。 バスのつり革に手をかけ、見守るように目線を私に合わせて。 話す度に、若王子君の髪が揺れる。くすぐったいレモンの香り。 声が響く。鼓膜に、その先の骨に、全身に。 ……いい夢だったよね、もうあんな事ない。 単身赴任したきりのお父さんを思い出す。 ……期待しない。諦めるんだ。 「おはようっ、ほとぎさん」 ヤバい、顔がにやける。 振り向かなくても、わかる。昨日聞いた声だったから。 声の主は、隣に歩み寄ってくる。 「おはよう」つい、俯いてしまう。見たいのに、見れない。 「昨日はありがとう。俺、一方的に話しちゃって」 「ううん。全然」テンパってろれつが怪しい。話したいのに、うまく伝えられない。 「そっかぁ、良かった。ね、ほとぎさん。俺さ……」 下を向いてても感じ取れる。若王子君、もじもじしている。 「もっと、ほとぎさんと……話したくなったんだ。今日、昨日と同じ時間にバスで帰るんだ……じゃ、俺学校で宿題片付けるから」 脱兎のように、彼は坂を駆け上がった。 ……あれ、もしかして、これって。 顔が熱くなる……。彼は知らないだろうな、こんなに私が紅潮してるのも。顔面を塞いで、にやけを隠してるのも。 ……私も、もっと若王子君と話したい。 近くにいたい。 その時、妙な声が耳の奥から……響いた。 ……のね……きき………げた。 私は一度立ち止まるも、見た目は普通に学校を目指している。 なんだか、足取りが軽い。ふふっ、小躍りしてしまう。
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