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「別に、あたしはサボってなんかない。具合悪くて早退しただけ……若王子(わかおうじ)君も人の事言えないでしょ。元気なら、学校戻った方がいいよ」
「俺も、体調不良で早退したんだ。心配してくれてありがとう」
2人の不良は、助かったと安堵しその場を後にする。
球磨と会話しながら若王子は、不良が無事に離れていくのを見届ける。
球磨ははっと美男子の意図に気付き、恥ずかしそうに頭をポリポリと掻く。
照明を照り返した林檎のように、艶やかで紅潮した彼女の頬は温かみがある。
「あたしの方こそ、悪かったよ。不良から助けてくれたんだろ、すまなかった」
「ん?何のこと」若王子はとぼける。
球磨の目が和らぐ。スカートの裾が揺らぎ、風薫る。
いつのまにか彼女のそばにチャトラ猫が擦り寄っていた。
揚々と足に絡みつく、度重なる餌付けで太ましくなった猫。
「あ、まずい。急いでたんだった。球磨さんそれじゃ、また明日」
「うん」
若王子は全力疾走し、公園の鳩達は一斉に空へ散らばっていく。鳩の影で、陽が煌めいた。
「あっ、」と立ち止まって彼は振り向く。
「俺じゃないから」
「へっ?」
「でも、球磨さんがカッコよく見えたのは本当だよ……ま、わかんないと思うけど」
「ちょっと、まっ……」何言ってるんだ、彼は。
「それじゃ」
今度こそ、若王子は公園から出て行く。
若王子の姿が見えなくなるまで、球磨はじっとそのまま佇んでいた。
彼が消え、足元に居座る猫を撫でる為、彼女はかがんで優しく触る。
寝転んで、腹を見せる猫。
赤い長方形ブロックの生々しい地熱。
鼻腔に残る、青々とした柑橘類の酸っぱさ。
先程まで見えた後ろ姿が球磨の中で、願望に近い像を結ぶ。
彼女は呟いた。
「……カッコよくなんか、ねぇんだよ」
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