一章 ほとぎ ひなの日常

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えっ、なんで!? 軽いパニックになって、正面に向き直す。 どうして。どうして。 男女隔てなく、みんなから好かれてて人気者の彼が。 引っ込み思案で特に長所もない、私に。 後ろの席から、秋山君達は漫画の話しを再開したので、若王子君が普通に話しをしている。 ……今、自分の顔、ゼリーが溶けたようになってるだろうな。 幸せ過ぎ。 恥ずかしすぎる。ほっぺたの熱が冷めない。 冷めないよ。 「…痛っ」 慌てて、右の太ももをつねる。そうでもしないと、直らないような気がして。 それでも良かったかも。 その位嬉しかったから。 「はーい、みんな席ついてねー」 スーツ姿の玉川先生が号令をかける。 かったるい感じで、みんなが席に。 場違いみたいなホトトギスの囀り。柔っこい、5月の日差し。 隣席の梶原君、りんごの香り。 ワックスなのかも。 ……私のレモンと混じったりするのかな。 そんなこんなで、匂いに気にして、予習した授業を真面目に聞いて。 聞きながら、ごめんなさいと思いながら、心は勝手に若王子君の事を捕まえて離さない。 休み時間を、トイレと携帯で過ごして。お昼と同じで。 辛いけど、ふと見る若王子君の姿で元気が出る。 けど、もっと辛くなる。思えば思うほど、届かない事が分かってるから。 嬉しいのと悲しいのが、ないまぜになっていても、それでも若王子君を見てしまう。 中学の友達のマコちゃんが、昔の人がアイラブユーを死んでもいいって訳したって言ってたけど、わかる。 わかりすぎる。 みんなも同じ風なのかな。 マコちゃんの話しを聞いて、私は生きていて欲しいって思って。 一緒になった人には、自分より長生きして、幸せになって欲しい。 あー、誰にも話してないからぐちゃぐちゃのまま引き摺り続けちゃってる。 でも、私の日常は世間で言うと普通みたいで。胸が痛くて、普通じゃないのに普通みたい。 普通なのに、たくさんの涙が出るの?って普通という人に言ってやりたい。 普通じゃないのに。でも、誰かに言った事ないからわからないけど。 そんな私の日常も、このGW明けの水曜日からガラッと変わってしまった。
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