6人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな事を愚痴っていた私が、まさか湯北君に『その手の事』で詰問される日が来ようとは、本当に人生分からないものだ。
あれから一年と少し、湯北君はもちろんユナちゃんや紗希ちゃんも随分と成長し、しっかり戦力として活躍してくれている。指導を担当した先輩としては、頼もしいやら嬉しいやらである。
湯北君は今日は外周りらしいけど、私の両隣のデスクで黙々と作業にうちこんでいたユナちゃん紗希ちゃんは、今日の仕事もてきぱき終えて折り目正しく挨拶し、背筋を伸ばして退社する。特に紗希ちゃんは入社当初の言動が個性的だったこともあり、この一年の成長ぶりには目を見張るものがあった。
とはいえ、まだまだ任せられない仕事も多いわけで、今日は結構な時間の残業になっている。彼女達の今の仕事ぶりなら来月くらいから、もう少し引き継いでもいいかも知れないなぁ、なんて考えて給湯室で機嫌良く残業のお供、ミルクと砂糖たっぷりのミルクティーを淹れていた時だ。
「久美先輩」
後ろから、突然声をかけられた。
「すいません、驚かせちゃって」
本当だよ、思わずミルクティーこぼしそうになったよ。……という内心は臥せておく。
「ああ、まだ残ってたんだね。お茶淹れようか?何がいい?」
「すみません、じゃあコーヒーお願いします」
「ブラックだったよね」
おもむろにインスタントコーヒーを開け、お湯を注ぎ、軽くコーヒースプーンで混ぜるだけ。有り難みも何もないそれを礼を言いつつ受け取った湯北君は、なんとも気まずそうに私をチラチラ見ている。
……なんだい、悩みでもあるのかい?お姉さんが聞いてあげてもいいんだが。
なんて思っていたのに、やっと開いた湯北君の口から出たのはこんな言葉だった。
「俺、知ってるんです。……久美先輩、課長の事好きですよね」
一瞬、息が止まった。
「そうねぇ、課長優しいしね。アタリの上司だと思うよ」
「ごまかさないでください。そういう好きじゃない筈です」
そんなバカな。
今まで一度たりとも……こういう事に鼻のきく薫にだって、親友のまゆかにだって気付かれた事はない。だって、課長は小柄で若干ふっくらしていて、ちょっとドジッ子属性の、言っちゃなんだがゆるキャラ系。カッコいいタイプの方ではないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!