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そんな中、レオンは奇妙なノイズに気づいた。
キイキイと虫が鳴くような声に似ている。
どうせ暇だし、その音に耳を傾けていた。
それは虫ではないようだ。妖魔でも野獣の仔とも違う。
段々声が近づいてくる。
それと同時に臭ってきていた。
甘酸っぱいような、それでいて苦みのある臭いもする。
ああ、わかった。
この臭いは人間だ。
人間はなんでも食べるし、その感情もさまざまに揺れ動き、とんでもない邪なことも考える。
そういう思考も臭うのだ。
コーヒーとヨーグルト、すき焼きのタレとタルタルソース、ゴーヤなどがごっちゃ混ぜになったようなわけのわからない、そんな臭い。
キイキイという声がキャーキャーに変わっていた。
うるさい。
メスだ。
甲高い声でやたらに泣きわめいていた。
こういった悲鳴にはトゲがある。
その声を聞くたびに耳がチクチクした。
ああ、このメスたちにはまだ、この霧の里がよく見えていないのだとわかった。
人間界からきちんとした手続きを取らないで、ここへ連れてこられたのだろう。
人は信じられないと認めないし、そんなものは存在しないと決めつける。
だから、見えないのだ。
哀れな生き物。
やかましい声の二人は、チンピラみたいな男二人に捕まれてやってきた。
ブラッケンに掛け合っている。そして、レオンのいる檻があけられた。
えっ、マジ?
ここへ入れるのか。
ってことは、食べていいのか?
半龍のレオンは人間はまだ、食べたことはないが、野獣より骨が柔らかそうで、きっとうまいに違いない、なんて考えた。
しかし、ブラッケンはすぐさま「レオン、手を出すな」と釘を刺す。
やはり、だめか。
レオンは再び目を閉じた。
食べられないのなら、用はない。
その人間のメス、二人は檻に投げ込まれてブーブー文句を言っていた。
「痛い」だの、「ここはどこ」だの、「ここから出せ」だの、うるさい。
ブラッケンは二人を連れてきたチンピラたちに金貨を渡していた。
ふうん、人間一人金貨一枚か。
悪くない買い物だろう。
金貨一枚あれば、豪華な食事が二人でできる。
それがこの見世に出て、いくらに化けるかお手並み拝見だ。
レオンの頭の中に、そのうちの一人の思考が入ってきた。
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