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北城(きたしろ)すみれは、檻の中に突き飛ばされて、したたか腰を打った。
思わず、悲鳴をあげた。
ひどく乱暴に扱われている。
しかし、すみれたちがいくら騒いでも男たちは何も言わないし、誰も助けにこようとはしなかった。
というか、ここには誰もいないようだ。
少なくとも誰の姿も見えなかった。
ここはどこなんだろう。
不安、不安しかない。
確か、少し前までは繁華街の薄暗いパブにいたはず。
それなのに、どうしてこんなところにいるのかわからない。
すみれは記憶をたどる。
この日は病院の帰りだった。
姉が入院していた。
消灯間際に帰る時、ちょうど聞こえてきた看護師たちの心ない噂話。
姉はたぶん、このまま目覚めないだろうという。
彼女たちは口では気の毒よねと言っているが、所詮それは他人ごとに過ぎない。
医者はそうはっきりとは言わないが、実際のところ、その通りなのだろう。
姉は半年近くもずっと意識不明だったから。
そんな夜、亜美とその仲間たち三人と街で会った。
亜美とは同じクラスだけど、グループが違うから、それほど親しく話したことはない。
けど、向こうもすみれの帰りたくないサインを読み取り、こっちも亜美がむしゃくしゃしているのを嗅ぎとっていた。
「ねえ、北城さん、どこか行くの? ねえ、ちょっとつきあわない?」
そう声をかけられた。
はっきりと家へ帰ると返事をすればよかった。
けど、その時のすみれは、口ごもり、曖昧な返事をしていた。
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