入院中の姉を持つ孤独な高校生・すみれ

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「ねえねえ、最新式のカラオケなんでしょうね」  そう、亜香里が訊いた。 「まあね」  一瞬だけ、男がサングラスを外し、亜香里を見た。  すると亜香里が黙った。  それまでカラオケか、ゲームセンターもいきたいとはしゃいでいたのに、急に黙り、ただ歩く。  おかしいと思ったが、亜美はもう一人の男と冗談を言って笑っていた。 「ねえ」  今度は男がすみれを見た。  サングラスを外す。  その目は真っ赤。血の色だった。  その瞬間、頭の中が真っ白になった。  まるで突風が頭の中に吹き荒れ、記憶のすべてを吹き飛ばしてしまう、そんな感覚。  しかし、すぐに我に返った。 「えっ」  それは男が発した声。  驚いてすみれを見ていた。 「はい? なにか」  すみれの疑問。 「あ、いや、なんでもない」    大通りから外れて、裏道へ入る。  今までこんなところ、来たことがない。   【ナイトマーケット】という看板の店に入る。  中は暗く、誰もいない。 「ああ、そこに座ってて。飲み物、持ってくるからさ。みんなカクテルでいいよね」 「はい」  亜美がそう返事をしていた。  四人がソファに座ると、店内にほのかな明かりがつき、奥から音楽が流れてきた。  よく見るとバーのカウンターにもサングラスをかけたバーテンダーが立っていた。  さっきの男たちの話と違っている。  もっと賑やかな若者が大勢いる店なのかと思っていたのに。  こんなところで最新式のカラオケなんてできないだろうし、ダンスをするフロアもない。  それよりも奇妙だったのは、亜美の取り巻き二人の女の子たちだった。  さっきまで、うるさいくらいはしゃいでいたのに、今は黙ったまま。  その目は酒の酔っているかのように、目がトロンとして、焦点が合っていない。  亜美は好奇心たっぷりの顔で、バーの方を見ていた。  カクテルを出された。  亜美はそれを勧められるままにぐいぐい飲んで上機嫌だ。  男たちはとりとめのないどうでもいい話を延々としていた。  何度もそっと亜美の脇腹をついて、帰ろうと言った。  しかし、亜美はなにが楽しいのか、男たちの話にはしゃぎ、腰をあげようとはしなかった。
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