第2章 草食なオレ

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思惑通りに深紅の薔薇を散らし 遠野さんを腕の中にしまい 瞼に憧憬(しょうけい)のキスをする。 一週間がまだ始まったばかりだから 今日はこの辺で。 擽ったそうに細く喉を鳴らし オレを見る為に、長く潤った睫毛をあげた彼女は ソレ以上に潤ませた瞳でオレを誘う。 「新城さん……」 「なに?もっとシたい?」 ふ、と軽く笑みを残して 抱える腕の力を幾分か強くした。 「あ、違っ」 「違うの?じゃ、なに」 「あの」 「うん」 「か、……会社での、事なんですけど……」 二人の熱が冷めてきたのか 布団の隙間から入る空気が冷たく感じて 遠野さんをくるみながら、更にソコに潜り込んだ。 「会社?」 思い当たる節は沢山あるけどドレ? 例えば オレと目があって物欲しそうにしてた事? それとも アカイカオして誘ってた事? 違うかな。 自分でちゃんと言えますか?遠野さん。 「えーっと、小川さんの事なんですけど」 「小川さん?」 オレは首を傾げて 彼女の頭を撫でた。 「……だ、抱っこされた小川さん、です」 そう言った瞬間の遠野さんの瞳が‘ウルッ’としたのを 目の当たりにして 息が止まるくらい心臓に受けた衝撃は 少なからず幾つかの細胞を破壊しただろう事は間違いない。 ちょっと、真剣に可愛すぎるんですけど。 何これ、オレ、裁判にかけられてる? これ、オレの心の広さを天秤で計られてる? 「あぁ、雨宮女史が騒いでたあの お互いが愛を籠めて抱擁をし合ってた、ってゆー、そのうちの一人の小川さん?」 「そ、そんな愛なんて籠めてませんっ」 3割増くらいに話を拡大すると 慌てて否定をした彼女 いつになく強気のようだった。 「ムキになってる」 「な、なってませんっ」 ちょっとだけ、意地悪をしてやろうか。 ねぇ、遠野さん。
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