第2章 草食なオレ

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到着したタクシーで ついさっき押さえたシティホテルに滑り込んだ。 たったのワンメーターの距離だったが 眠った木本さんを抱えていたので徒歩は無理。 遠野さんだったら 逆に歩いて運び込むけどね。 名のあるホテルに 女を抱いた男が入ってきた事に 瞬間に沸き上がるロビー。 好奇の眼差しがチラリ、ホラリと 通り過ぎてゆく。 事情を伝え カードを先に渡し、清算してもらうように促した。 こんな出で立ちだと 無理やり連れ込んだと思われる場合もある。 チェックインは後にするようにしてもらい とにかくホテルマン一人と共に部屋まで彼女を送り届けた。 ベッドで 眠りこけている木本さんを他所に メッセージを残して オレは部屋を出た。 マジでめんどくせぇし、マジで疲れた。 きっとこの憂さ晴らしを 遠野さんに向けてスルる事になるのは 火を見るよりも明らかだ。 また、ロビーへ戻り チェックインを済ませて支払い済、と印された レセプトを受け取った。 ちょうど振り返って目についたのは メイン階段下に必須の活け花ディスプレイ。 もう、薔薇の季節か。 暫くすると、クリスマスツリーも鎮座する。 数百本の深紅の薔薇は その存在感を圧倒的に魅せつけていた。 自然に零れる微笑みは 全てが遠野さんをどうしてやろうか、という企みによるもの。 同じような薔薇を 彼女に咲かせようと決めて、オレはホテルを出た。
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