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勝手知ったる遠野さんのマンションに
100%勝手に潜り込むのはもういつもの事だ。
カチャリと部屋のドアを開けると
まだ、灯りが点いている。
まぁ、当たり前か
木本さんが予想外の展開に流れてくれたお陰で
門限までまだ猶予がたっぷり残っていた。
1LDKの彼女の城は恐ろしく殺風景だ。
最低限の必需品のみ揃えられたこの部屋は
現代のお姫様にはどうも不相応で
無機質過ぎるここにオレがやっと色を添えたただ、ひとつ
異質なケース。
リビングに入るとそれが一番目についた。
扉の開いた音に反応して彼女が顔をあげる。
どうやら仕事を持ち込んでいたらしい。
「こんばんは、遠野さん」
「こんばんは、新城さん」
挨拶を交わし
「続けて」
オレはノートパソコンと向き合う彼女に
どうぞ、と促した。
「はい」
フワ、と微笑んだ遠野さんは
家仕様の青い縁の眼鏡をキュ、とあげながら
また、パソコンに向かった。
ふーん、いつもと変わらず
可愛いじゃねーか。
フイ、と回転して緩んだ顔を見せないように
また、100%勝手に奥の部屋へと向かう。
ここは、彼女が詰まった部屋だ。
幻想的な色の間接照明。
白みかかった青と
オレンジかかった赤が
なんとも言えない雰囲気を出し
混ざり合う天井で
不思議な気持ちにさせる紫を創る。
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