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「そうですか」
「それだけかよ、ジョー」
「ええ、まぁ、あんまり関係ないっていうか」
「は?」
また、ひとり百面相を披露する専務はステアリングを握る手をワナワナと震えさせた。
「そんな許しを乞う必要のないくらいにしてみせますから」
オレは、挑戦的に専務に笑いかけた。
百面相はピタリと止み、そこに留まったのは
昔から知ってる顔。
「おーきくでやがったねぇ、お手並み拝見しようじゃないの」
『お手並み拝見』
させてやるよ、……二ノ宮先輩。
獅子と呼ばれるのにはソレなりに訳があった。
本当のライオンは雄は滅多に狩りに参加しない。
雌が捕ってきた獲物を、我が物顔で喰い貪るんだ。
だけど、専務には両方の性質が一個体に宿っている。
女性的な部分で懐に飛び込み
あれよあれよと知らない間に、首の骨を掴み、背骨を折る。
そして、今度は男性的にアグレッシブに攻め
腹が膨らむまで話を大きくする。
営業時代に叩き出した数字は
到底、真似出来るモノじゃなかった。
そんな偉大なオッサンを黙らせるには、まず目先の事を潰していかない事には始まらない。
「ま、とりあえず、木本女史をなんとかしますよ」
「あー、厄介な人ね。
あの手の女には気を付けた方がいーよぉ?
ジョーを食べちゃおうとしてるからねぇ」
クククク、と揺れる様子がさっきまでの態度と全く違う人物みたいで
オレは、この隣に座るオッサンが一番恐ろしいと、一番厄介だと密かに思っていた。
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