第9章 オレの素性②

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「……なぁ、どこまで収まる?」 両方の頬を掌でそれぞれ包み いかにも優しく導き 酷さの欠片も何もないようにして 多少の反発を見せる遠野さんの頭を固定する。 天を仰いでいたスカイツリー。 ソレがやや撓(シナ)り ゆっくりと姿を消していく。 「もう、慣れてきた?」 見下ろしながら 溢れてきた涙で瞳を最大限に膨張させた遠野さんが 時々、何かを訴えながら それでもオレからは片時も背かずに、ただ されるがままにそうされて 「……すご、遠野さん すっげ、気持ちイィ……」 ヒクリ ヒクリ 喉の反射が定期的にオレに伝えるのは 彼女の苦しさ。 「んんっっっっっ」 反発が俄に強くなり オレを見ていた目が、とうとう固く、固く閉じられた。 抜け出した途端に咳き込んだ遠野さんの両腕を掴み 引き上げて胸に抱える。 背中を撫でながら 「やべぇ」 愛しさで溢れて堪らないオレの細胞がしっかりと 沸き立つのを感じながら遠野さんに言った。 「ね、次、オレの番だけど しっかり着いてきて?」 やっと、咳もおさまったばかりの遠野さんの唇に そんな軽い前触れだけを伝えてかじり付き 彼女の呼吸の自由を奪う。 「ふ、ァァぁん」 「気持ちよく、なって」 「んんっ」 溶けるように密着する身体は 繋がりを求めてしばらくの間、さ迷う。 愛のあるキスが身体に与えるのは 至福と 悦楽と 安心と 欲望。 「しんじょ、さんっ」 「なに?」 「んっ」 軽く這わせた掌はまだ、ベビードールの中には潜り込んではいなくて 焦らしに焦らしてどこも確かに触ってはいない。 我慢ができなくなったお姫様が どうでるか、ちょっと楽しみにしながら 深いキスを与え続けた。
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