第9章 オレの素性②

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とにかく忙しいんだ。 小川のバカ親子に付き合ってロスした時間は思いの外大きくて、取り返すのに定時を過ぎる羽目に。 バカバカしい。 そこへ来て 「ジョーぉー」 入り口にしなだれかかったオ◯マを見て ガックリきた。 「ちょっとー、野暮用」 人差し指をクイクイと曲げてオレを呼ぶ。 「用件があるならここで」 「あらぁー、いいのかしら?」 「……あぁ」 なるほど。 株式トリックが判明したのか。 含み笑いを続ける専務に オレは片手を上げた。 「いきます」 まだ、疎らに人の残るオフィスを出て専務に続くと いきなり切り出される真相。 「あいつらみんなグルだな」 「はい?」 「株式買い占めだ」 「乗っ取りか……やっぱりな」 役員室へ行くのかと思いきや 地下の駐車場へ降りるらしく エレベーターに乗り込んだ専務の触れた地階を示すボタンに灯りが点いた。 「もう、ずっと前から仕組まれてたんだな」 「……」 「長い月日をかけて、どこにもバレないように」 専務の声は抑揚もなければ、温かみもない。 「ただ、そんな事をしてまでどうしてウチに手を出すか、だ」 そしてチラリとオレを振り返った専務の口角がユルリと上がる。 「ジョー、お前、もう知ってんだろ?」 シュー、と何かが擦れるおとをあげながら エレベーターが止まり、ゆっくりとその扉を開けた。
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