第9章 オレの素性②

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オレを取り巻く不協和は一体どこから産まれたのか。 根っこにあるのは、私怨、だととってもいいのだろうか。 そもそもは、オレの親父に纏わる事が発端なのか。 八雲 誠一郎(ヤクモセイイチロウ) 代表取締役社長 自分の会社の社長が父親だと知ったのは 入社して暫く経ってからの事だった。 画面に映った会社のHP。 それまでは親父の存在は語られなかったから 親父は死んだもの、と思い込んでいて まぁ、家が賑やかだっただけに寂しい思いも余りしなかった所為もあってか、気にしたことはない。 大学を卒業して経理部に配られたオレは、持ち前の数字への愛着を遺憾無く発揮、データベースの整理や新しいプログラムの構築に、随分と精を出していた。 先輩だった佐久間さんはオレを良く思わず、何かにつけて文句を飛ばし、とばっちりを擦り付けられた事が懐かしいくらいだ。 その佐久間さんのPCにウィルスを撒いたのは多分、四賀。 木本さんと繋がりがあるのも、十中八九、四賀だろう。 まぁ、早い話が、木本ー小川ー四賀、は何らかの繋がりがあるわけで…… 小川邸の新築に元々携わっていたのは木本事務所。 その木本さんが、どうしてウチを小川先生に紹介したのかは謎。 その辺は明日、本人から直接聞けばいい。 素直に教えてくれるかは別として。 「あー、めんどくせぇ」 呟きは、少しずつ温まってきた部屋の空気を揺らし 暗い部屋に溶け込んでいく。 前よりもちょっとだけ荷物が増えた。 遠野さんが一緒に住むようになったからだ。 彼女はあの小川の次男の暴挙の後、直ぐにオレの傍へ落ち着いた。 おにいちゃんは最後の最後まで反対して 心配していたらしい。 「ま、あんなに可愛いんじゃ心配もするわな」 苦笑いしながら叩いたキー。 堺が以前置いていった黒のファイルを開きながら オレは木本さんのやけに自信ありげなその態度を思い返していた。
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