第9章 オレの素性②

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「しかし、鋭い観察眼だな、ジョー」 コトリ、と空になった缶を置く音がなんとなく虚しく感じた。 「一瞬だっただろ?吸殻なんて」 「そうですね」 「お前は昔からそうだったもんな マトリックスでやり合ってた時だってそうだ…… 一つのズレも見落とさない ソコを見付けては確実に押さえてくる。 こないだも響ちゃんが驚愕するくらいのセキュリティ だっただろ? お前、なんか、全部が勿体ないな? 真面目に数学やったらどうだ?」 「マトリックスって……」 ちょっと笑ってしまう。 オレを尻目に専務はちょっとした身振り手振りを交えながらため息を吐き出した。 「オレの昔のオンナだよ」 「へーぇ」 「白々しいな、ジョー」 くそ、と小さく呟いた割には 唇が笑ってる。 「オレがまだ営業だった頃、付き合ってた ……いや、付き合ってた、と思ってたのは オレだけ、だけどな」 「へぇ」 今度はさっきよりも興味ありげに。 また、その空気を読んだのか 専務がこっちをギロリと睨んだ。 「そう 長い長い時間掛けて、仕組まれた事だったんだな」 「ーーーーぷっ」 「てめ、何を笑ってんだよ」 「いや、専務がねぇ? アハハハハハ、バカにしてるわけじゃないですよ?」 いや、大いにバカにしてんだろ。 オレ。
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