第9章 オレの素性②

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いつの間にか、専務とオレの位置はとても近くて 何が楽しいんだか、肩を組み顔を寄せ合うそんな仲に。 「お前が、社長の息子だから?」 専務が囁いた。 間近で見ると、やっぱり獅子の瞳は健在で 全体的な造りはバランスがよく営業にはもってこい。 「息子だとは認めてもらってませんよ」 「へぇ」 面白そうに呟いた専務の息が耳を掠める。 身体を離そうにもガッチリと組まれた肩は どうやらちょっとやそっとでは剥がれそうもない。 「認めさせなかったんだろぅ」 「……どうですかね」 「お袋さん、結婚しないの?」 「さぁ」 「もったいねぇな」 「人生それぞれですからねぇ」 「遠野ちゃんもやれねぇな」 「……」 ギュ、と引き寄せられて 俯き加減にならざるを得ないほどの距離で 専務の唇はオレの耳のすぐ傍に付けられる。 「得体の知れねぇお前ん家に嫁がせて いろんな不幸に巻き込まれんなら、やれねぇ」 言うと思った。 「得体は知れてますよ」 「どこがだよ」 この人は ホントに何処までが真面目で、何処までが男で そして 何処までが‘ニノミヤ’なんだろう。
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