第9章 オレの素性②

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「ジョー、お前、ナニモン?」 吐息だけに乗せられて 耳に入り込んできたのは、さっきも聞いたそのセリフと 専務の、きっとありとあらゆるところでスペシャルな動きをするであろう舌。 「だから、ちょっとした家のスネカジリですよ」 「へぇ、ちょっとした家の?」 「ちなみに、オレと母は家督からは外れてるんで 本当なら厄介事なんかには一切関わらない筈なんですけどね?」 「ジョー」 「はい」 「ちゃんと言わないなら、抱くよ?」 「……そっちの趣味はありませんよ」 「オレだってねぇよ」 耳で湿った音を立てる専務に いい加減、鳥肌も最高に限界を迎え オレは首を専務に向ける。 「うちは至って普通の株式会社です」 「嘘つけ」 「ただ」 専務との距離は重なるくらいに近い。 「ただ、なんだよ」 深く煎ったコーヒーの香りが鼻腔を擽るくらいに近い。 「表と裏が本当にこの社会にあるなら その裏に根っこが張ってあるのは確かです」 おい。 またかよ……。 「尚更、嫁にはやれねぇな」 男同士のキスに 何の意味があるんだ。 専務は上っ面をペロッと舐めてやっと離れた。 「癖になるな」 「なりませんよ、オレはパス どっちもイケル、専務の相手は務まりません」 「そうか、残念」 専務はニヤリ、と唇だけを引き上げた。
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