第11章

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そして、どうしてうちの蝶々は こんなに膨れっ面をしてるんだろうか。 仕事から、真っ直ぐに帰宅したにもかかわらず 玄関でオレを迎えるカオに不満がダラリと垂れ下がっている。 「遠野さん、何不満?」 明日は祝日、明後日はイブ。 なのに、何が彼女の背後に暗い影を落としているんだろうか。 そりゃ、今日も残業で時間は既に11時を回ってる。 だけどもさ 遠野さんもさっき帰ってきたところでしょ。 「別に不満なんて、これっぽっちもありません」 「は?」 じゃあ、なんでそんな顔してんのさ。 「強いて言えば」 「うん」 最近、家では赤い縁のメガネに変えた遠野さん。 そのレンズの向こうから滲む訝しげな雰囲気。 強い下からの睨みに オレは、堪らずニヘラっ、と笑ってしまった。 「かわいい」 「なっ!」 艶々と輝く天使の輪に掌を沿えて撫でおろせば 途端に染まる赤い頬。 そして膨らんだそこに唇を寄せた。 このまま永遠に続けばいい。 この幸せな時間が。 きっと続くだろうと願いたい。 「もう!新城さん! 聞いてました!!?わたし、強いて言えば!」 「なに?」 潤ませた瞳をしっかり3センチ先で捉えて (近いだろ) 後頭部をガッチリとロックして (すっげー、抵抗されてる) 「強いて言えば、なに?遠野さん」 瞬きが尋常じゃないくらいの速さで繰り返され 遠野さんの瞳が見え隠れする。 いつの間にか シラナイうちに 無意識っていうの? 玄関を上がった所、直ぐの壁に彼女を押し付けていた。 「強いて、言えば、……っ」 「……ん」 合わせた唇は、少し浮かせて ‘ただいま’ と、囁きまた、合わせて。 強いて言えば……の続きはまた、後で聞いてあげようと 思った。
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