第11章

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************ 「しん……さん」 「しんじょうさん」 「新城さん」 薄く開いた瞼の隙間から見えた靄の中は まだ、不明瞭で 心地のいい声だけが、オレを擽った。 「新城さん、こんな所で寝てたら風邪ひきますよ あっち、行きましょう?」 目の前には蝶々がヒラヒラと飛ぶPC画面 そしてオレを覗き込んだ蝶々がオレの頭をスルリと撫でた。 「……遠野さん」 あのまま、寝てたのか。 ……不覚。 覚束ない脳ミソが、意識に関係なく捉えたのは オレの髪を鋤き、頭皮に滑らせた 細くて柔らかな指。 無意識に掴み 引き寄せていた。 「今、何時?」 「あ、……えと、さ、3時過ぎで」 「そう」 どちらかというと今日の部屋着は 可愛らしい感じのヒラヒラで 「続き」 「あっ、」 「続きしよ」 PCの画面を閉じて立ち上がり 彼女の手を引き、部屋の電気を消す。 暗がりから、暗がりへ続くと 今の今までここにあった温もりの中へ 遠野さんと一緒に沈み込んだ。 「あったけ」 「んっ」 布団の中でギュウと抱き締めて 体温を奪う。 オレは彼女の胸に顔を埋めた。 柔らかな安心と 快適な温もりが とても穏やかにさせてくれる。 どこか波風が立ってしまっているオレの中で ここだけが唯一の凪。 「新城、さん?」 「ん?」 「どうしたんですか?」 普段、こんな事は絶対にしないかもしれないような事を オレがしているから きっとそう尋ねてきた訳で。 「寒かったから、体温分けてもらい中 もうちょい、待って」
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