第11章

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そっと巻き付いた腕に とても癒される。 オレを包んだ優しさと温かさに 逆に奪われたのは、心。 もう、離さないで オレを一生。 「新城さん、疲れてるんですよ」 「毎日遅くまでずっと、PCに向かってるんだもん」 「明日はお休みだし、このまま寝ましょう」 リズムが変わらない緩やかな凪は オレに染み入り 不思議な感覚を連れてくる。 「ねぇ、新城さん」 「わたし新城さんがデザインに来て ずっと、思ってました」 「いつも優しい人なんだなぁ、って 当たり障りのない返事 にこやかな笑顔 カッコいいのに、どこか抜けてて……」 遠野さんの温もりと耳を擽る音に揺られながら どこか夢見心地で 「だけど見ちゃったんです」 「いつだったかな、あの打ち上げの前…… だから、イベント真っ最中だったかな クライアントから突然デザイン変更で でも時間がなくて」 ゆらゆらと漂いながら そんな事もあったっけ、と思い出し 「一人で、会社に泊まって描き直してましたよね?」 遠野さんは独り言のように 時々笑いを含みながら続ける。 「デスクの灯りしか点いてなくて 暗がりに浮かぶ新城さんが 物凄く精悍で、男らしくて ドキドキしました」 「途中でネクタイを緩めて シャツの袖まくって ……月明かりの下で色を確かめながら また、PCに向かって」 「あれ、第2部、夜のイベントだったんですよね? 懐かしいなぁ」
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