第11章

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本当の事が分かったとして 遠野さん、キミはそれでも オレの傍にいてくれるだろうか。 ************* どうして、何時ものパーティションのくくり部屋じゃないのか。 それはきっと 分かっているからなんだと思う。 「それで、選手村のB案は木本さんからボツが出たので D案採用しました」 三木部長に手渡した資料は 上側右端を中心にめくられていく。 「後は、ベイエリアの3階部分の広場にも 選手村と共通した空間に、との事なんで 3階は、全部描き替えしました」 「そうか あぁ、これか」 「はい」 広げた図案を見て、部長はため息を吐き出した。 珍しいな、と思ったのは 言うまでもない。 「新城、いつもお前は型に囚われない画を描ける ……才能なんだろうな」 部長が文句を言わない図案や図面はほぼない。 「木材と、漆か……日本を代表する造りだな 加工には最適な業者を選ばないとな」 こうやって穏やかに同意を得られる事に驚く。 「……四賀が、辞職する前に ‘新城を採用したこの会社を心底恨んだ’と言っていた」 四賀……今じゃどこで何をしているのかも 知らないが ヤツは建築士で、自分の腕には絶対の自信を持っていた。 美術館のもそうだったんだろうな。 「俺も実際、あの社内公募のデザイン画候補が 挙げられた時 衝撃を受けた」 「そうですか」 「デザインの決まり事を無視した発想と それでいて、ちゃんと細部まで計算され尽くした 完璧な仕上がりに あぁ、面倒なヤツがいるんだな、と思った」 ゆっくりと、資料から顔をあげて オレを見据えた部長の視線。 どこか、ぶっきらぼうに感じる 紡がれるセリフとは全くイメージが違う。 ギラリと、射るような、それ。
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