第11章

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「遠野卓也さんの」 「遠野卓也は俺の父だ」 だだし、と言った唇には薄い笑み。 「認知されてはいない」 「……そうですか」 「母親はそれを遠野には伝えなかったみたいだからな」 「……」 「そして、母親と別れた遠野はその12年後に結婚したんだ 遠野志津香とな」 「そのようですね」 遠野卓也が志津香に出会う前に 三木部長の母親とそういう関係にあった、それは 堺からも聞かされた通り。 「新城」 「遠野が、俺の腹違いだってのは彼女の話から分かったよ 彼女が入社した時に俺についてたからね、最初は。 まぁ、まさか、と思ってはいたけど」 ……まともな神経じゃないだろ。 どう考えても。 だけど、遠野さんは今でも、何も知らない。 「遠野卓也が母と過ごしていたのはハニートラップだ 知ってるだろ?遠野卓也は所謂、産業スパイ」 こんなに饒舌な部長はあまりお目にかかる事がなかった。 彼はオレがさっき見ていたこの会議室の天井に 視線を留めたまま、話を続ける。 「当時、遺伝子治療の最先端といわれたところで 役員秘書を勤めていた俺の母親に近付いたのは あらゆる情報を引き抜く為」 そこで一旦区切った部長に、また笑みが溢れた。
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