第11章

34/35
前へ
/35ページ
次へ
「俺の母親は、遠野卓也に騙されたんだ。 当時の粋を誇るありとあらゆる情報を引っこ抜かれるために あの男に目をつけられた」 笑いが笑いでなくなる瞬間は 何とも言い難いほど、見るに見かねる。 そうして変わりきった表情をオレに向けた三木部長は そこで、またニヤリと唇に弧を引っ張った。 気味が悪い。 笑っている?いや、歪んでいるのは唇だけ。 「ハニートラップ、知ってるか? 色恋沙汰で誘惑した相手から情報を聞き出す手口だ 古い手口だよなぁ? あぁ、まだ当時はそんな古くもなかったか。 あわよくば木本がお前に仕掛けようとしたのと なんら代わりない」 木本もバカだ そう付け加えた部長。 ……部長、あんたもだよ と、言いたいのを殊更我慢したオレは まだ理性が残っている証拠だ。 「まぁ、当然、用がすめばポイ捨てだからな 何かしらの理由をつけて居なくなった時には もう俺が腹の中に居たんだよ 会社の情報は駄々漏れ、俺の母親は一部の重役と共に 責任を問われ解雇」 この人は、こんな憎々しげな事を語るときでも どこか惹き付けられる音を出す。 声、っていうのは凄い影響をもたらすもんなんだ、と 改めて思った。 「その後の事も知ってるんだろ? お前がまさか、政治家先生を黙らせるような権力の下に いる人間だとは知らなかったからな もっと簡単に辞めさせられるように すれば、よかったな」 「それは怪文メールに紛れて 佐久間さんのパソコンにウィルスを流した事ですか それとも」 笑っていない部長に 笑いかけたオレ。 いつもの、他所行きの微笑みだ。 「メインに下手な愛撫をしてる事でしょうか」 会議室の空気は なんていうの? マジで、クソ重くなってきた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

356人が本棚に入れています
本棚に追加