第11章

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「部長」 「コンピューターの中身を自在に操る」 オレと部長のセリフが全くの同時で だけど、質のいい方がなんでも印象に残る率が高いのは どんな物事に対しても言える。 話を続けたのは勿論、部長。 「遠野卓也に裏切られた事を知っても尚、 そんな風にヤツの事を半ば尊敬していたよ 30年も前のコンピューターなんて今に比べれば 大人と赤子くらい差があるだろうに」 遠野卓也の最終学歴は 高卒。 だけど、彼は驚くほど頭が良かったそうだ、と 専務がオレに話してくれた。 志津香さんと出会った時には楽器の調律師だったという。 実家にあったピアノをまた弾きたいといった為 調律をしてもらう事になり、そこで来たのが卓也さんだった。 ‘志津香に聞いた話だとお互い、一目惚れだったんだと’ 志津香さんは何の見返りも持たないただのOL。 その頃にはもう、そっち系の仕事はしていなかったのか 特に揉め事も無かったらしい。 遠野卓也がどんな男だったかはしらないが 志津香さんはあの専務の妹だし 遠野さんを見ても分かる、きっと綺麗な女性だったんだろう。 「あの男が結婚しているらしいと聞いたのは、俺が12の時だった 母親は律儀な女でな やっと幸せになれたんだね、って あんな男の為に笑ってたんだ。 それを見て、俺は誓ったよ、新城……」 部長の声は、耳に染み入る。 何よりも、深く 低く、魅惑的に。
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