第11章

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「もうすくクリスマスですね」 和やかに笑う岡田さんがオレの力作を1つずつ見ながら 静かに言った。 「予定あんの?岡田さん」 フフ、と鼻で笑いマウスをクリックする手を離す。 彼女の席はちょうどオレの向かい側で その不気味な笑いのまま戻り、腰を下ろした。 「ありません」 フフフ、と笑った。 「そう」 あえて深くは突っ込まない。 それがどういう事かっていうのは、分かってるから。 「あ、違いますよ、新城さん」 慌てて言う彼女に首を傾げる。 「私から、お話したんです」 「へぇ、やるじゃん」 「……なんっか、急に冷めた、というか やる気がなくなったというか」 岡田さんは細いフレームの眼鏡をクイと上げて 穏やかに笑った。 「新城さんと話した後、自分なりにちょっと考えたんです」 その目線はもう目の前のPCに向かっていて 「こんなんでイイ訳がない、って思いました」 カタカタと鳴り始めたタッチの音は いつもの仕事風景にすぐに溶け込む。 「だから、善は急げで」 「そう、相変わらず仕事早いね」 「嫌味ですか」 「ちげーよ、誉めてんの」 ム、と鼻息を吐き出す岡田さんは 「新城さん」 「なに?」 「ありがとうございました」 画面を見ながら、また笑う。 「なんか、色々見直せて良かったです」 こんな風に何でも穏やかにウマクいくとは考えてない。 だけど誰も傷付かないで事が運ぶなら それはそれにこした事はない。 ……そんな事はあり得ないだろうな。
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