第12章

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一面ガラス張り、出窓タイプのフロアに設えてある 所謂カップルシート。 程よくフワリと沈むソファ席。 「浮かんでる、みたい……」 「うん、そうなればいいな、と思って デザインしたんだ」 「え?」 そう、幾つかある出窓を思い切って切り取った空間に出来るように。 こうして眺めると 周りの暗闇に紛れて、目の前の夜景に沈み込む事ができる。 一種の感覚の錯覚。 よくあるパターンだけど ちゃんとたくさん計算した、はず。 「ここって、新城さんの……?」 「うん、まだ遠野さんと一緒に仕事する前かな?」 「……わぁ」 彼女は周りを見渡した。 シックでクラシカルな大人の空間。 人で溢れていても、混雑感はなく じゅうぶんに雰囲気をソコに合わせられる。 まぁ、この点に関しては店側の努力だけどな。 「素敵!空間プロデュースの天才ですね、流石っ!」 いきなりのプロ視点で あちこちを捉える遠野さんに 笑ってしまう。 このギャップも堪らない。 中身と外見のそれも然り。 そして、ソトとナカの熱さと厭らしさに オレはメロメロ。 ねぇ、知ってる? 遠野さん。 運ばれて来た、ノンアルコールのアップルシードルで グラスを合わせ 我慢の出来なくなったオレは リンゴ味のキスをした。 遠野さん以外、こうして触れたくなくなった事 今日は嫌というほど教えてあげる。
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