360人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたの」
ゆっくりと身体を起こした遠野さんは
いつもよりも何百倍もヤバそうで
その理由なんて聞かなくても……
「ダメ、だよね?」
首を傾げて、その瞳でオレを追いかけ
袖口をクイと引っ張りキュと掴む。
「何が、ダメ?」
妊娠している女性には優しくしないとダメな筈なのに
「何がダメなの?」
こんな初歩的なのは、意地悪とは呼ばないか。
「悠」
やっと、見開かれた瞳。
一瞬のうちに瞳孔までが大きく開き、直ぐに元に戻る様を
嬉しいと感じた。
オレを対象に、キミの気持ちが動く事へ本当に
計り知れないくらい喜びを感じるよ。
「キスだけで我慢出来ない」
いつの間にか悪い蝶々へと変化を遂げた遠野さんが
ポツリと呟いて
俯いた。
お姫様だったのに……な?
恥ずかしそうに唇を噛む姿は
オレの脆い理性までも噛んで砕こうとしている。
「体調は?」
ふるふる、と緩く首を振る。
「しんじょぉ、さん」
俯いたまま、縋り付く蝶々を追い払う事なんて出来ないでしょ。
「ん?」
背中をほんわりと擦りながら
労り、落ち着かせて。
でも、胸元に埋められた頭をソコに擦り付けて
いとおしそうに、空気を吸い込むキミを見て
いても、勃ってもイラレナクなった事実。
「お風呂、いこっか」
頭を撫でて、ついでに髪を軽く引き下げ、顔をあげさせると
とりとめもなく零れるキラキラと
‘私を愛でて’というトキメキと
オレに大打撃を与えたのは
ハルカ、お前だからね?
まっすぐに見据えた黒い瞳。
頭を撫でるのはいつもの事。
「いこ?
満足するまで舐めてやるから」
言い終わらないうちから立ち上がり
手を引いていたオレ。
小さく息を呑んだ遠野さんを
グイ、と引っ張った。
最初のコメントを投稿しよう!