第14章 幸せ過ぎて……

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「わたしの悪阻はぜんっぜん、酷くないんです」 と、便器を抱えながら言う遠野さん。 このコはやっぱり 専務となんかしらの血の繋がりがあるんだと 思うよ。 苦しいだろうに。 申し訳ないけど、…笑っちゃいけないんだろうけど おかしくって。 「ご、ごめん、ごめん」 「新城さん、ひっどい、笑うなんてっ」 ほっぺたをぶっくり膨らませた遠野さんは ソファの上で膝を抱えて転がっている。 この姿勢が物凄く楽チンなんだそうだ。 だから、何時ものように 頭の方へ座り、そこを撫でてご機嫌を取る。 ごめんってば。 ごめん。 「遠野さんがあんまり面白い事するから 可愛くて、つい、……ぶっ」 「あ、また!もーーー」 だって、便器の前で真剣な顔して そして、やっぱり最後はヒーヒー言いながら 立ち上がるんだよ? もうギャップが面白すぎてさ。 「あ、だから新城さん、さっきの続き!」 膝の上に頭を乗せてきた遠野さんの髪を掬い 「うん」 「2日の新年会、行くの!行きます!」 キスをする。 ハラハラと舞う細い黒を 手から少しずつ滑らせると 綺麗な遠野さんの顔に疎らな模様を描く。 「綺麗」 ゆっくりと身体を起こした遠野さんが 顔にかかる髪をはらわずにそのままオレに近付いてきた。 「キス、だけ」 赤い、まぁるい唇がそう動くから 「うん、キスだけね」 オレは唇にかかる髪だけを避けて 静かに重ねる。 甘い。 そして、熱い。 その中で舌先だけを触れ合わせて 優しく、滑らかに絡み合わせた。 ……キスだけ、なんて収まりつかない。 そうなる前に離れてみても 既にお互いに色を帯びた目 それを見て、どちらからともなく笑う。
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