第16章 紡がれる生命の神秘

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「えー、遠野ちゃん!会社辞めるの??」 「はい」 つい、今し方部長の前で退職宣言をした悠。 雨宮さんがいつものスピーカーぶりを発揮する。 「えー!!!もったいなぁぁぁい!」 わざわざ専務に出向いてもらう必要はなかった。 今の仕事では、必然的に専務も絡んでいて おまけのようにそこかしこに着いてくる。 そうだった。 部長は オレと並んだ悠を見上げて‘わかった’と 一言だけ添え、会社の提出書類書式に従った願い書を 受け取っていた。 彼女は一切ブレなかった。 部長の目を正面から捉えて ピン、と張った背筋と膨らみの目立ってきた腹を 隠そうともせずに 「仕事での引き継ぎはほぼありません ただ、新規は時期的にもお引き受けできかねます 総務には伝えてあります」 と、ハキハキ答えていた。 木本さんは快く悠の移動に応じてくれている。 願ったり叶ったりだ。 木本事務所でそのまま繋げればいいのだから これほど有難い事はない。 ‘ほんとにー?遠野さんがウチに?? 彼女、センスいいから有名になるわよぉ’ 木本さんのセリフだ。 有名になんてならなくていいんだ。 ただ、なんの柵(シガラミ)もないところで 悠がノビノビと実力を発揮できれば、それでいい。 何もいらないんだ。 きっと 辞める、という事実でさえもネジ曲げて しまいそうな輩がいる。 「ね、あんたたちさ、よく一緒にいるわよね」 雨宮さんがオレの肩をグイと引っ張った。
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