第16章 紡がれる生命の神秘

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************ 「ほら、悠 見て?亘(ワタル)、退院したよ」 腕に抱いた我が子の重さはしっかりと感じる。 「凄いな、成長するって 呼吸すらままならなかったのに めちゃめちゃ飲むんだよ?ミルク」 照りつける陽射しが、緑の葉の隙間から 強く煌めき その向こう側には陽炎らしき靄がかかる。 それくらい今年の夏は猛暑が唸りをあげていた。 白い壁 薄いクリーム色のカーテン 天井からフックで繋がれた液剤 悠の腕が細くなった気がした。 「これ以上痩せてどうすんの?」 なぁ、お母さん、元々細いのに。 と、腕の中へ語りかけて。 亘はしっかりと目を開けて ほとんどが黒を占めるそこに オレを写している。 澱みのない綺麗な黒い瞳は 母親に似ている。 そして、全体的なパーツは誰でもない 父親似。 「な、悠 そろそろ、亘がママにも抱っこされたいって? ……起きたら、どぅ?」 空調管理がなされた室内は快適で ここにいれば外のうだる暑さなど忘れてしまいそうになる。 よくあるモニターが映し出す緑色の波。 変わる事なく一定に流れていく。 たくさんの数字だけが、ちょっとずつのズレを示すが ほぼ、一定。 ベッドの上に寝たままの悠は 安らかに、寝息を立てていた。
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