第16章 紡がれる生命の神秘

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後ろからの声が聞こえ辛かったのは 耳の中の圧力が変わったからだ。 「大丈夫ですか」 静かな音に変わったそれは、どこか膜に包まれているよう聞こえ、不思議な感じがして振り向くと すぐそこにいる堺を見て ため息を吐き出す。 長くも短くもないそれを残し、トイレのレバー下げた。 いつからだ、こんなに弱くなったのは。 あの時の悠の青さ。 そして、病院へ運ばれてからの苦しみように 何もする事が出来ず、ただ、ただ呆然としていた自分を思い出すと、完全に脱力してしまう。 瞼の奥にピッタリと焼き付いていて離れない光景に いつまでやられるんだろうか。 医者は奇跡だと言っていた。 子供も無事で 母親も無事だったのは 奇跡に近いと。 どうして、脚立なんかを使わなければならなかったんだ。 詳細を聞いても誰も知らないという。 真相は全て 眠る悠が握ったままだった。 悠の容態が急変してすぐに 専務からの電話を受けて、彼女がどうやら資料室にいたらしいという事が告げられた。 倒れた脚立と書類の散乱した室内 悠のメガネと愛用のボールペン 恐らく、恐らくだが、脚立から落ちたのではないかと。
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