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後ろからの声が聞こえ辛かったのは
耳の中の圧力が変わったからだ。
「大丈夫ですか」
静かな音に変わったそれは、どこか膜に包まれているよう聞こえ、不思議な感じがして振り向くと
すぐそこにいる堺を見て
ため息を吐き出す。
長くも短くもないそれを残し、トイレのレバー下げた。
いつからだ、こんなに弱くなったのは。
あの時の悠の青さ。
そして、病院へ運ばれてからの苦しみように
何もする事が出来ず、ただ、ただ呆然としていた自分を思い出すと、完全に脱力してしまう。
瞼の奥にピッタリと焼き付いていて離れない光景に
いつまでやられるんだろうか。
医者は奇跡だと言っていた。
子供も無事で
母親も無事だったのは
奇跡に近いと。
どうして、脚立なんかを使わなければならなかったんだ。
詳細を聞いても誰も知らないという。
真相は全て
眠る悠が握ったままだった。
悠の容態が急変してすぐに
専務からの電話を受けて、彼女がどうやら資料室にいたらしいという事が告げられた。
倒れた脚立と書類の散乱した室内
悠のメガネと愛用のボールペン
恐らく、恐らくだが、脚立から落ちたのではないかと。
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