第16章 紡がれる生命の神秘

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個室の中の空気は落ち着いていた。 「子宮がんだったのをずっと隠してたのね 子宮は摘出したけど、もうあちこちに転移があったって」 「そうでしたか」 悠は黙って聞いていた。 悠に、木本さんの事を詳しく話した訳ではなかった。 だから、何故八雲社長と木本さんの経緯が 関係があるのかは深くは分からないかもしれない。 だけど、木本さんのセリフは 何も隠される事なく続いていく。 「八雲社長をやっつけてやろうと企んで 結局息子に阻まれて、おまけに 実は企みが明後日の方向へ向いてたなんて……」 はぁ、とため息を吐き出した後 「……復讐なんて、思い付くもんじゃないわね 新城くんに阻んでもらえて、よかったかも あなたが、バカな男じゃなくてよかったわ」 グラスのおちょこを顔の前まで掲げて それを一気に飲み干した。 人はどうして間違いばっかりを繰り返すのだろうか。 木本さんを見てそう思っていた。 だけどそれは、間違いを訂正できるから 修正できるからなんだろうな、と 今更ながらに気づく。 「こないだはオレの事散々に言ってくれてましたよね?」 「ええ?そうだっけぇ?」 「バカな男なら良かったって」 「やだやだ、しつこい男って、ねぇ?遠野さん?」 曖昧に笑う悠を見て 「木本さん、悠はしつこいオレが大好きなんですよ? むしろ、しつこくないとダメ」 「し、新城さんっっっ?」 なんって事を言うんですかっ! とても、ビックリしながら。 そんな時、悠の両手は自然にお腹に添えられる。 自分が驚いた事に、‘大丈夫だよ’と なだめているんだ、と勝手に思っている。 なんて、微笑ましい愛なんだと、思ってるんだ。 こんな風に大事に守られて育っていくんだ。 そんな母親が目の前で崩れていく そして 過失、とされても仕方のないような事故に合い それで残された子供はどうすればいいんだ……。
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