第16章 紡がれる生命の神秘

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************ 「悠、ホントにもういい加減にしとけよ」 トーストを口に咥えたまま頷いた悠の手には 夕べ引いたばかりの製図が丸められていた。 それをチューブの中に押し込んで 「明日で終わりですから!」 言い放った途端にトーストが転がる。 テーブルに細かいパンの粉が散らばって 眉を寄せた悠が呟いた。 「あ」 「あ、じゃねぇし、当たり前だろ」 体調も胎調も全てが順調で 産休をもうかれこれひと月返上しようというところだろうか。 とにかく、今描けるところを描いてしまいたいという 彼女の希望で 今日まで、在宅で仕事をし続けてきた。 今日だけはどうしても、手渡ししたい図面の説明に 業者と会わなければならないと久しぶりの出社をする予定だ。 「オレが持っていってやるよ」 「ダメなんです、これだけは!」 電話でもいいだろ?というオレの提案さえ聞き入れない まぁ、職人魂というところは分からないでもない。 だけど、キミはいま、身重。 と、言うと決まって跳ね返されるんだ。 「じゃあ、妊婦は仕事をしたらダメなの!?」 いや、マジで、お前のお母さんちょっと恐いかもよ? と、悠のお腹を撫でながら心の中で囁く。 「帰りは」 「帰りは堺さん!」 プリッ、といきり立った様が 本当に逞しくて、半笑いと、ドン引きが一緒になった顔を 笑ったキミ。 堺がよく面倒を見てくれていた。 マジで脚を向けては寝られない。
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