第16章 紡がれる生命の神秘

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「とにかく、こちらも全力で事態を食い止めています ご主人も、しっかりなさってください」 静かに、何よりも熱く語られた一文。 ドクターが、大丈夫ですか、と付け加えた事に 多少の違和感を覚えた。 オレが尋ねられている、と気付かなかったからだ。 そんな事にも気付かない程に、放心していたと言われれば確かにその通り。 こんな時に落ち着いているフリすら難しいんだな、と マジマジと思い、なんとか頷き返した。 それからの事は、もう夢の中のようだった。 しばらく、思い出せない事も 後々になって蘇ってくる。 細かな音や、処置室でのセリフ。 オペ室が空くのを待っていられない程の緊急事態。 救命ではよくあることだと、後で聞いた。 これも、後で聞いた事だったが…… 早剥、という症状の場合 胎児の心拍は止まってしまう事が多い、と。 更に、進行具合によっては 母体の子宮収縮不良による出血性ショック 臓器障害等により、母体の命も…… どれくらい経っていたかは分からないが 弱く、泣く声を聞いた。 そこに立ち竦んでいたと思われ その声に、はっ、と顔を上げる。 手先も足先も、痺れていた。 特に足の痺れが、意識が繋がった瞬間にとても酷くなり まるで今まで正座をしていたかのように それは酷く痺れていて 同時に きっと、母胎に揺られていた あの、小さな命が覚醒したんだと思った。 いや、良いように思いたかったのかもしれない。 悠は 悠は……
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