第16章 紡がれる生命の神秘

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普段、見舞ってる時にも異常を知らせる機械音が鳴り響く度にビクリと震えた。 こんなに徹底的に管理がなされている、 にもかかわらず、身体の中は予測のつかない事ばかりが 起こっているらしい。 悠の目は覚めなかった。 毎日が不安、だけどそれを吹き飛ばしてくれるような希望もあった。 彼は「ワタル」と名付けた。 端から端まで全て、良いところをかっさらって欲しい、と そう願って。 保育器越しに触れてもイイ、と許しが出たのは 亘が産まれて8日目の事。 薄い、ホントに薄い手袋に包まれた薬指を こんなに強い力で握るのか、と驚いたほど。 赤ちゃんがこうして触れたものをぎゅ、と握りしめる事を 把握反射というらしい。 人間に備わった原始反射の一つだということだ。 小さな身体は、必死でこの世界へ対応しようと 毎日たくさんの情報を集めて 生きよう、としていた。 少しずつ外されていく機械。 少しずつ強くなる鳴き声。 大きな音に両手を広げ その自分の反射で泣き出す事も。 産まれたばかりの、脆弱な雰囲気はもうどこかへいってしまった。 弱々しさを吹き飛ばすように乳首を探し ゴクリゴクリとミルクを飲み込む姿を見て 瞼の裏を何度も熱くした。 「なぁ、悠」 目が覚めるのを待ち遠しく思ってるのは オレだけじゃないんだよ? 「辛い?まだ、辛いか?」 ゆっくり休んでさ 早く元気になって起きてこいよ。 サラサラと睫毛にかかる前髪を撫でると ‘新城さん、擽ったい’ と言って目を覚ましたりしないかな、なんて 薄くて濃い希望をずっと持っている。 あの日から3週間、悠は眠りっぱなしだった。 血液検査ではまだ、あちこちの結果に異常な数値が出ているが かなり、落ち着いている、と それだけを支えに。 ね、悠。 悠。 「悠、キミを失いたくない……」
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