第16章 紡がれる生命の神秘

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2人の生きる強さに奇跡を見てきた。 亘がその威力を存分に発揮し 悠の家族も、オレの家族にも光を注ぐ。 小さくてもその存在は何よりもデカくて 瞬く間に温かい色を塗りたくる。 な、悠。 亘を初めて腕に抱いたよ、とその日 彼女の真横に息子を寝かせた。 「亘、もうすぐ退院できるんだって」 な、悠。 オレ、結構オムツ変えるのうまいかも。 「お父さんも全般、できるようにならないと」 そう言ってオレに赤ちゃんの世話、を教えてくれている看護師さんは2人の親なんだ、と言った。 亘を抱く専務を見てとても笑うんだ。 専務は亘を食べそうな、いや、丸呑みしてしまいそうな 勢いであやしまくる。 誰が見たってオカシイ、だろう。 「オジサン、ですか?」 「あぁ、妻の……」 そう言うと 「うちも、私の兄があんな感じです、ダブっちゃって おっかしー」 専務には感謝だ。 普段からのユニークさに加えて、やっぱり その場の雰囲気を楽しく、盛り上げてくれている。 周りのみんながそうだった。 だから、元気にならなきゃいけないんだ。 オレはもちろん。 「……悠、キミも……」 早く、戻っておいで。 キミが望んだ通り、可愛くて、しかもオレに似て そしてキミそっくりな男の子だ。 クリップの挟まった指。 脈が刻んでいる証。 いつものように頭を撫で 痩せた頬に指を這わせる。 湿らせた布で唇を潤し、そこにキスを落として 傍から離れた。 オレがいない間に、もし何かあったら、と思うと メチャクチャになる。 頭の中が混乱する。 「また、明日な……」 そうして1日が終わる。
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