第16章 紡がれる生命の神秘

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「新城」 嫌な響きに他ならなくなってしまったこの音。 さらに、全ての疑いものし掛かってくる。 ただの事故だとしか言いようがなくても テメェがいるからだろ、と 責任すべて擦り付けたい。 「部長、選手棟、許可出たそうなので 実際に要望込みで連絡始めたいと思います」 木本さんとの通話が終わるのを待っていたらしい 部長が、オレを呼ぶ。 「N建設にアポとっといてくれ 木本さんも同行するらしいから」 「分かりました」 仕事に関してはなにも文句をつけられないくらいに キッチリとこなし 段取りも方法も大事にする。 「新城」 「はい」 「遠野の様子はどうだ」 ただひとたびこっちの話題に触れられると お前に話す事は何もねぇよ、と ののしってやりたくなる。 「はい、順調です」 社の人間には 悠の意識が回復していない事は伝えていない。 知っているのは身内と、悠を拾ってくれる事になっている 木本さんだけ。 まさか、こんな事になっているとは 誰も思っちゃいない。 だから、余計に……妻が、入院しています、くらいでは 休めない。 堺が、もうしばらく待て、とオレに知らせてきたのは やっと亘が退院する、その日だった。 そして、脚立のネジが一つ無くなっている、と分かったのだ。
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