第16章 紡がれる生命の神秘

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「何が原因かは分かりませんが 多少、呼吸面でのトラブルがあったようです 酸素の投与を少し多くしました」 「……そうですか、有り難うございました」 「大丈夫です、容態は落ち着きました」 大森ドクターはオレの背中に掌を回し 自分のいた場所へ促すようにスイ、と押すと 「奥様の身体はかなり回復してきています 毎日、呼び掛けてみてください」 ポソリと呟いて帰っていく。 呼び掛けか。 毎日くだらない事ばっか話しかけてるよな? 「なぁ、悠」 生理的に零れてくるという涙を拭ってやる。 これも初めて見た時には、起きている、のかと思った。 「悠、いいかげん、起きろよ……」 細くなった腕を、骨ばった掌を掬い 少しだけ強く握ると腱の反射でゆるく握り返してくる。 「お前、何度もビックリさせんなよ……」 爪先に唇をつけて その、人差し指を口に含んだ。 舌で指の腹を擽り、第一関節に歯を立てる。 ちゃんと血が通っているその温かさを感じて 涙が溢れた。 初めて考えてしまったんだ。 悠が、もう目覚めなかったらどうしよう、かと。 オレはそうなったらどうすればいいんだ、って ベッドに伏せたままそのまま目を閉じた。 ちょっとだけ、さ。 寝かせて、悠。 亘? 「ああ、母さんが見てくれてるよ」 だから、ちょっと休んでから帰らせて。 「離れたくない」 今ここを。 「悠と」 夜はちゃんと休んでいるつもりだった。 亘も、夜泣きを激しくするタイプではなく 夜通し眠ってしまう事もあった。 だから、睡眠はよくとれていると思っていたんだ。
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