第16章 紡がれる生命の神秘

35/35
前へ
/35ページ
次へ
夢はよく見た。 キミが起きている夢。 握った手を握り返して 「新城さん」 微笑むキミは、本当に綺麗で。 おかしな事に亘は出てこない。 それは、きっと悠、キミがまだ亘の事を ハッキリと認識していない、と 実際に意識のある時に亘に会っていないからなんだろうと 思う。 急速に薄れていくその、キミの笑う景色が あぁ、また、夢なのか、と一気に現実に引き戻した。 薄く、開いた目に白いシーツと クリーム色のカーテンとが飛び込んできて あぁ、まだ病院にいるのか、と そして握ったままの悠の手を、きゅ、と引き寄せた。 その直後。 弱い、弱いけど、確かな手応えを感じた。 腱反射とは違う。 「はる、か?」 ガバリと伏せていた上半身を起こして 除き見た彼女の顔。 「はるか」 「はるかっ、はるか!」 くっきりとした二重。 大きな黒い瞳が、緩やかに揺れたそこに 柔らかな灯りが入り込んでいて そしてその黒い瞳がオレの方へス、と動いた。 また、きゅ、と弱く握られた手に全神経が集中する。 「は、るか…… わかる?オレが、誰かわかる? なぁ、悠……」 酸素マスクの内側が白く曇った。 ブクブクと湧いている泡と、変わらないリズムを刻む音に 消されて、悠の動いた唇から漏れた音が聞こえない。 「悠、お帰り おかえり、はる、か」 震えるのは唇だけじゃない、 指先も足先も、膝だって身体だってガクガクと軋む。 「……ん、しん……」 苦しそうに眉を寄せるその様子でさえ、嬉しく思う。 表情の変化を見せたんだ。 酸素マスクの奥で確かに紡がれている音に 胃の中がひっくり返りそうなぐらいに 喜びが涌いていた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

299人が本棚に入れています
本棚に追加