第16章 紡がれる生命の神秘

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「素敵な人ですね、木本社長って」 「そう?」 「うん。素敵でした」 「そう、木本事務所、行きたい?」 「え?」 「木本さんとこならいいよ?」 帰り道、月明かりの下を手を繋いで歩きながら 悠に話をする。 「部長、まだ諦めてないみたいだから」 キュ、と握り返された掌。 「今日みたいな事もまた」 「今日……」 「なんともなかったのは、奇跡だよ、悠」 キミの身体は思ってるほど弱くはないんだろうけど 普通なら考えられないような事でも どうにかなってしまうかもしれないんだ。 「人を疑うのはよくないかもしれないけど 明らかに、故意だと思う 部長にしたって、そうだ」 悠やオレが動揺する事を目的に セコイ手を使ってくる。 「仕事は辞めなくていいけど 職場は、変えなきゃいけない オレはそう思ってるんだけど、どう?」 「新城さん……」 「うん、考えて?ちゃんと いや、考えよう」 もうじきに、産休に入る時期だ。 線は自宅でもひける。 それに会社にいるより安全だ。 「産休に入ったら、おばさんとこ、帰る?」 「え?」 「どうする?」 「……帰らないつもりでした」 「そうか、帰るんだったら オレも便乗しようかと思ったんだけど」 「え!! お、おにいちゃんと一緒になりますよっ!?」 「あ、そうだった」 専務はあんないい大人なのに 実家暮らしだったんだ。 とにかく少しでも早く、不安要素を取り払わないと オレも気が気じゃない。 もっと早くに そうするべきだったんだ。
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