第16章 紡がれる生命の神秘

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「……部長は何が気に入らないんでしょうか」 「さぁ」 「庇う訳ではないですが ……初めの頃はとても、とてもよく面倒を見てくれました」 チラリ、と悠に黒目だけを向ける。 あんな目に合わせられてもこうやってヤツの 肩をもつ、とまではいかないが ディフェンスするような発言は、気に入らない。 「……だけど 今は、身体が拒絶するぐらい、大嫌いです 思い出すだけでも、嫌になる 本当は同じところになんて、居たくない 目が合うと、執拗に追いかけてきます」 同じ会社にいるからといって ずっと傍にいられる訳ではない。 「ごめんな」 「新城さん、新城さんはいつも私に聞いてくれてたのに 私が大丈夫だって、言ってたから」 「……大丈夫な訳ないよな 無理やりにでも辞めさせるべきだった」 繋いだ手は離さないと決めた。 キミの心も同じ。 「悠、めでたく寿退職しよっか」 にっこりと微笑みかけて 「あ、もう結婚しちゃったけど ついでに発表して 今抱えてる図面、どれだけあるの?」 「今は、ベイサイドのぶんと オリンピックの選手棟だけです」 「そう、じゃあ、木本さんとこに移っても支障ないな」 引き継ぎも大していらない いいタイミングだ。 「じゃあ、明日にでも部長と総務に伝えようか」 「……はい」 「木本さんに帰ったら連絡して あぁ、部長に伝えるなら専務に同席してもらおう」 ちょっと根回ししとくか。 「退職願い、書ける?」 「気合い入れて書きます!」 「ぶっ」 「なんで笑うのっ?」 悠は元々、活発な女の子だ。
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