第17章 悠……

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「はるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 ズンズン、ズンと早足で詰め寄って来たその形相が 恐ろし可笑しくて 全てのモノを堪えてるんだろ、ってのは分かるよ。 分かるけど 「あーあー」 なんかが伝染りそうな気がして ひょい、と亘を遠ざけるように抱き直した。 「わ、亘、すまん、後だ、お前は後で 愛でてやるからっ」 いや、愛でんでえーわ マジで。 はるかぁ! と、言いながら飛び付こうとした瞬間 ビシリ、とおっかねぇナースの一声が。 「二ノ宮さん、うるさい!」 最早名指しなとこが笑えるな。 このひと月でどんだけ注意されたかいつか 悠にチクッてやろう。 「亘、よかったな。 悠ちゃん、お前の事分かってたな」 「あぁ、亘くんが行っちゃう!」 「悠!しん、心配したんだぞぅっつつつ」 あのイトコ同士、どうやっておんなじ家で生活 してたんだろうな、笑える。 ……病院の入り口を出たところで いつもの見慣れた黒い靴が目に入った。 どうしてこの男はこんなに恭(ウヤウヤ)しく頭を下げられるんだろうか。 年齢不詳だが、オレより軽く20は歳上だと思う。 「坊っちゃん、悠さんご機嫌麗しいようで何よりです」 弾んだ声色。 堺も一番気にかけてきた悠の回復が嬉しいに決まってる。 「うん、堺も見舞ってくれば?」 「そのうち参ります」 「そう」 「坊っちゃん」 「うん」 「お話したい事が」 キラリ、と光ったのはオレの目の方だったのかも しれない。 病院の外に一歩出ると目映い日射しと まだ残る残暑の気配。 これからまた昼にかけては真夏日になりそうだ。 亘はまだうまく体温の調節ができないんだ。 早く涼しいところに連れてってやらないと。
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