第17章 悠……

5/36
313人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「亘はあんたが連れて行きなさい」 悠が目覚めた。 みんなが会いたいと思うのは当たり前だ。 だけど、まだ身体が重力にさえ上手く対抗できない彼女に負担はかけられないと 面会のタイムテーブルができたくらいだった。 オレは次の日、会社への出社を昼からにズラして 亘を連れて悠のところへ。 折原さんはああ言ってはいたが もし、また、眠ってしまったままだったら、と 不安がない訳ではない。 車を降りて、亘を抱き 彼女のいる病室へ向かう途中 コンクリートからタイル敷きに変わり そしてハイデックス(※床の素材)へと足を踏み入れて 自分が下ばかり向いていた事に気付く。 最近はこういう事が多い。 大概は俯いていて、あ、と思い顔をあげるんだ。 もう、下ばかり見なくてもいいだろ? 自嘲の笑いが込み上げてくる。 今朝起きた時、いつもとは違う感覚でいた。 モヤモヤが消えていく。 いつも、いつになったら目覚めるんだろう、と そればかりを考えていた。 だけど もう、考えなくてもいいんだ。 悠の意識は醒めたんだから。 布団の上で隣に敷かれた小さな布団に目をやって 亘に伝えたのは ‘お母さんに会えるぞ’ それだけ。 父親と母親の差は歴然だ。 勿論、父親の愛情もその存在も素晴らしい。 二人が揃ってはいなくても すくすくと不自由なく育っていく家庭も少なくはない。 だけどやっぱり思うんだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!