第17章 悠……

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母親の愛情は特別なんだと。 オレは親父を知らなかったけど 周りにはじいちゃんも、伯父さん達も 堺というおっかない存在も たくさん親父の代わりをしてくれる人がゴロゴロいて 親父1人の存在よりもたくさんの‘父’がいた環境に 感謝した。 だけどオレは母親にはなれない。 子供にとって母親は無条件に特別なんだ。 なぜ、と言われてもそれは本能なんだと思う。 遥か昔からインプットされた特別。 だから 悠が初めて会うこの子を 「亘!」 戸惑う事なくそう呼んだのを聞いて、真剣に驚いた。 両手を広げてオレの腕から 大事に大事に抱き まだ危なっかしい手つきで頬を撫で 満面の笑みで‘ワタル’と何度も彼の名を呼んだ悠。 「待たせてごめんねぇ」 少し掠れた声は ずっと発声をしていなかったからだ。 「なぁ、悠」 「新城さんに似てる!」 コロコロ、と笑う悠。 優しいその顔にはもう母親が溢れている。 「オレ、名前、教えてたっけ? あ、誰かから聞いた?」 「あー、握った! 手、ちっちゃーい!」 はしゃぐはしゃぐ。 おい、お前、昨日まで意識ぶっ飛んでただろぅ? 「誰にも聞いてないですよ?」 「は?」 「私、昨日あの後から今まで寝っぱなしでしたから 今、起きたとこです」 やはははー、かわいすぎっ、 所々に掠れた音を乗せるが 昨日の目覚めた時よりも何倍も元気になったように思う。 「……いや、なんで知ってんの」 ……亘の名前をどこで知ったんだ。 ふ、と大笑いを止めて 悠が目を細めて亘を見つめた。 「だって、新城さん、いつも私に言ってたじゃないですか 亘、わたる、って ちゃんと聞こえてましたから 早く会いたいって、思ってましたから」 ね、亘、と いとおしく紡いで 「会いたかった……亘に」 ぱ、と顔を上げて 「あなたにも」 オレを見て微笑んだその顔は もう、絶世のヴィーナスだ。
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