第17章 悠……

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微笑む彼女が、限りなくいとおしい。 瞼に何度も蘇った蒼い顔のキミを書き換えなければ、と 必死で堪えていたのに 亘を抱くキミのその存在さえぼやけてしまう。 頬に伸ばした手に擦り寄るキミは何一つ変わってはいなかった。 ただ、いつも見ているこの景色に オレとキミの血を分けた、彼が 増えただけ。 凄いな。 それだけ。 子供がいるって、凄いな。 二人の遺伝子を背負う亘を、今日だけは飛び越えて 最初にキスをしたのは、悠の方。 いつもカサカサだった唇が潤っている事にさえ 感動する。 「達(イタル)さん、毎日、有り難う」 「うん」 「ほんとに、本当に、有り難う」 掠れた声が、セクシーで もっともっと悪戯をしたくなる、のが本音。 だけど、この辺で離れとかないと 収拾つかなくなるから。 「……泣かないで、達さん、」 「泣いてないよ、感動してるだけ ひとつ、ひとつが嬉しいの 悲しいからじゃないよ、悠」 悠の形のいい頭に掌を滑らせた時、亘が ふえっ、と鳴き声をあげた。 「あぁ、ミルクね」 これからは夫婦の時間も削られるかもな? と、そんな風に考えてしまう自分がゲンキンに思えた。 亘セットが入ったバッグから保温用水筒とミルクキューブを取り出して哺乳瓶で二つをミックスする。 「すっごい!慣れてる!!」 悠が目をキラキラとさせて喜んだ。 「だろ?」 ‘熱くない’を確認して 悠の頬にも、同じように哺乳瓶を押し当てる。 「適温、熱くない、これくらいがちょうどいいんだ」 覚えて、悠。 キミのナカの方が熱いくらい。 小声で囁くと、久々に見た、ゆでダコ。 また、日常が戻ってきた。 堪らない、嬉しくて、楽しくて 堪らない。
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